塩分計を手に入れたので、早速食事の塩分濃度を測定しているのですがなかなかうまくいきません。
何が起きているのかまとめてから詳しく調べてみましょう。
何がどうした?
①めんつゆや醤油を測定していると明らかに測定値がずれる
・キッコーマン減塩醤油
15ml当りの塩分相当量1.2g
成分表の塩分濃度は8.0%です。
実測では3.3%でしたので塩分量は半分以下になってしまいます。
・キッコーマン本つゆ(3倍)
原液15ml当りの塩分相当量1.5g
成分表の塩分濃度は10.0%です。
実測では4.3%でしたのでこちらも半分以下です。
・ヤマキ減塩だしつゆ(3倍)
原液100ml当りの塩分相当量5.2g
成分表の塩分濃度は5.2%です
実測は4.3%でしたので17%ほど少なくなっています。
塩分計の測定範囲は0~10%ですので測定は可能なはずですが、どれも値が大きくずれています。
②希釈すると塩分量が増える?
「キッコーマン本つゆ」と「ヤマキ減塩だしつゆ」を3倍希釈してみましょう。
・「キッコーマン本つゆ」3倍希釈
塩分濃度を3倍に薄めているのですから4.3%の1/3の1.43%になるはずですが、2.38%と1/2程度にしかならないのです。
そのまま解釈すると「水を加えただけなのに塩分が増えた」というおかしな現象を起こしていることになってしまいます。
・「ヤマキ減塩だしつゆ」3倍希釈
こちらも同様に1/3にならずに1/2になっています。
●塩分濃度一覧
商品名 | 成分表濃度(%) | 実測濃度(%) | 成分表3倍希釈(%) | 実測3倍希釈(%) |
---|---|---|---|---|
キッコーマン本つゆ | 10.0 | 4.3 | 3.33 | 2.38 |
ヤマキ減塩だしつゆ | 5.2 | 4.3 | 1.73 | 2.22 |
3倍希釈後も成分表の値にあっているとは言えません。
どうやら塩分計で測定をして出てきた値がオカシイようです。
原因は塩分以外の成分
取扱説明書をもう一度読んでみるとこのような記述があります。
・測定のポイント
「サンプルに塩分以外のもの(糖など)が多いときは希釈する」・サンプル別の測定例
「醤油・ソース他
(Brixが6%以上で食塩以外の成分が含まれているサンプルと、測定範囲(塩分濃度)以上のサンプル)
→希釈してから測定してください。
つまりこの塩分計では塩分濃度が測定範囲内でも、塩分以外の濃度が高い場合はそのまま測定することが出来ないのです。
その際は10倍程度に希釈(薄めて)測定をしないといけなかったのです。
では塩分以外の成分がどの程度含まれているときに希釈をしないといけないのでしょうか?
そして「Brix」という聞きなれない単位がでてきましたが一体何でしょうか?
Brixとは
Brixとは主に糖の含有率を表す単位で、果物やワインなどの糖度を管理するために使われています。
しかし糖以外の成分が含まれていた場合もBrix値が高くなりますので、すこし強引ですが「溶け込んだ成分を全て合算した濃度」として解釈すれば分かりやすいでしょう。
料理は基本10倍希釈で測定すべし
ではBrix6%とはどの程度でしょうか?
いろいろな料理のBrixの参考値がアタゴのWebサイトに記載されています。
●アタゴ公式Webサイト>>豆知識>>スープ
http://www.atago.net/japanese/trivia_soup.html#soup
いろいろ調べてみましたが、味噌汁は6%以下に収まりますがそれ以外の多くの料理が超えています。6%を超えている料理の方が多いのです。
私達一般人が料理ごとにBrix値を調べることは困難です。またBrixを実測するには専用の測定器が必要です。
味噌汁より成分が濃いものと言われても、味の違う成分を合計して濃い薄いを比較するのは人間の舌では不可能です。
つまり「料理を測定する場合は希釈して測定する」と考えなくてはいけないということです。
たとえBrix6%以上の料理をそのまま測定して誤差が大きかったとしても、それが間違いだと気付く術がないのです。ならば全て希釈して測定してしまいましょうということです。
調味料のBrix値はこちらの商品カタログでも見ることができます。
●正田醤油 2014年総合カタログ(注意:専用ビューワが立ち上がります)
http://www.food-catalogue.com/catalog/2014/shoda0/index.html#page=19
これを見るとかけ汁・つけ汁・タレ・ドレッシング・ソース・醤油・みりんなどのBrix値は20~50%程度です。
調味料も必ず希釈をしないと測定できないということです。
こちらでは沖縄料理のBrix値を測定しています。
● DEEokinawa>>あの糖度を知る
http://www.dee-okinawa.com/topics/2013/06/brix2.html
10倍希釈の方法は?
10倍に希釈をするには10gのサンプルに水90gを加えてから塩分濃度を測定し、測定値を10倍することで換算をします。
実際に冒頭の「キッコーマン本つゆ」で試してみましょう。
10gの「キッコーマン本つゆ」を水で薄めて100gにします。
測定すると0.79%という値がでました。
これを10倍にして7.9%というのが希釈測定の結果となります。
さらに「ヤマキ減塩だしつゆ」も同様に10倍希釈で測定をすると
0.76%と本つゆに近い値が出ました。
こちらも10倍にして7.6%が塩分濃度ということになります。
成分表の塩分濃度が
「キッコーマン本つゆ」:10%
「ヤマキ減塩だしつゆ」:5.2%
ですので、7.9/7.6%という実測値は2つの商品のほぼ中間を指しています。
つまり希釈測定をしても塩分が倍の商品を見分けられないということになってしまうのです。
これは困りました。
まだどこかに誤差があるようです。
誤差を生む原因はどんなものがあるのでしょうか?
塩分計の仕組みから調べていきましょう。
塩分濃度を測定する仕組み
塩分計PAL-sioはいくつかある塩分測定の方法から伝導率方式を採用しています。
これは純水はほぼ電気を通さず、不純物であるミネラルが溶け込んだときにその量に比例する形で伝導率が変化する現象を利用しているのです。溶け込んだミネラルとはスポーツドリンクの宣伝でお馴染みの電解質のことで、ナトリウム(Na)・カリウム(K)・マグネシウム(Mg)・カルシウム(Ca)・クロール(Cl)など複数の成分が存在します。つまりこの伝導率方式の塩分計はいろいろなミネラルの影響を受けてしまうのです。
しかし塩分計ですので塩分(NaCl)の比率が多いものを測定していると想定して、全てのミネラルをひっくるめて塩分濃度と見なしているわけです。
①塩分濃度が高く検出されてしまう理由
塩分以外のミネラルが多いと伝導率が高く、すなわち塩分も高く検出されてしまいます。
最近増えてきた減塩商品では食塩(NaCl)の代替として塩化カリウム(KCl)を使って塩辛さを演出しています。前出の塩分が多く検出されてしまった「ヤマキ減塩だしつゆ」はカリウムが多いため、これが食塩として検出されているのかもしれません。
②塩分濃度が低く検出されてしまう理由
ミネラル量と比例してほぼ直線的に変化するはずの伝導率ですが、糖質などミネラル以外の成分の濃度が高くなると伝導率は低下するという特長もあります。つまり溶け込んだ全ての成分の濃度(Brix値)が高い場合は塩分が少なく検出されてしまうのです。
このめんつゆの場合は砂糖・出汁・みりん・醤油の塩分以外の成分などが影響します。
誤差の特長まとめ
ポイントは2つ。
・塩分(NaCl)以外のミネラルが多いと塩分が高めに検出される。
・糖分などミネラル以外の成分が溶け込んでいると塩分は低めに検出される。
この塩分計を使う場合はこれらを踏まえて扱わないといけないということです。
Brixによる誤差がどのように発生するのか実際に確認してみよう
味噌汁に近い塩分濃度である1%の食塩水に砂糖を加えていき、塩分濃度の変化を調べましょう。
塩分濃度は変わらないはずですが糖度を高く(=Brix値を高く)すると測定値はどのように変化するのでしょうか?
●食塩10gを溶かして1000mlにした1%の食塩水に砂糖を加える
塩(g) | 砂糖(g) | 設定塩分濃度(%) | 実測塩分濃度(%) |
---|---|---|---|
10 | 0 | 1.0 | 0.97 |
10 | 10 | 1.0 | 0.95 |
10 | 20 | 1.0 | 0.92 |
10 | 30 | 1.0 | 0.90 |
10 | 40 | 1.0 | 0.88 |
10 | 50 | 1.0 | 0.86 |
10 | 60 | 1.0 | 0.84 |
10 | 70 | 1.0 | 0.81 |
10 | 80 | 1.0 | 0.80 |
10 | 90 | 1.0 | 0.77 |
10 | 100 | 1.0 | 0.76 |
10 | 110 | 1.0 | 0.74 |
10 | 120 | 1.0 | 0.71 |
10 | 130 | 1.0 | 0.70 |
10 | 140 | 1.0 | 0.68 |
10 | 150 | 1.0 | 0.66 |
このような結果になりました。
- 砂糖を入れる前はほぼ正確な塩分濃度を検出している。
- 砂糖を加えると塩分濃度の測定値は低い方向にずれていく。
- 1リットルの水に150gの砂糖を溶かすと塩分濃度は2/3程度しか検出されない。
誤差は突然発生するわけではありませんので、なだらかに増えていく誤差をどこまでを許容誤差とするかが問題です。メーカーとしてはこの閾値をBrix6%すなわちこの実験では砂糖50g+食塩10gのラインにしているということです。(加えた砂糖で総量が増えているため、また食塩のBrix換算係数が1.0から微妙にずれているため正確な6%ちょうどではありませんが)
最終的に1リットルの水に150gもの砂糖を入れたわけですが、これは水100mlに砂糖を大さじ1杯半強と同じ割合になります。この程度であれば和風の甘辛な味付けでありがちな分量です。そのときは上記の測定データ同様に塩分が2/3程度しか検出されなくなってしまうということです。
さらに料理で溶け込む成分は砂糖だけではありません。出汁やみりん、食材から出てくる成分も影響してくるでしょう。
どうやら一般的な料理を測定すると塩分濃度が低めに検出されてしまうのがこの塩分計のサダメのようです。
まとめ
- 塩分濃度が測定範囲内だとしてもBrixが6%を超える場合、希釈をしないと正確な塩分濃度は測定できない。
- 糖分などミネラル以外の成分が溶け込んでいる(Brixが高い)と塩分濃度は低くなる方向に誤差がでる。
- 醤油、タレ、ドレッシング、ソースなど調味料のBrixは20~50%もある。
- 一般の方が料理のBrix値を確認することは出来ないので、10倍希釈を前提と考えたほうがよい。
- 一般的な料理を測定すると塩分は少なく検出される傾向にある。(要追加調査)
- ナトリウム以外のミネラルが多いと塩分濃度は高くなる方向に誤差がでる。
この塩分計を料理に使った場合、希釈測定が前提となり、それでも正確な塩分量を測定することが難しい。これが現実なのかもしれません。あくまでも目安として大雑把な塩分量の把握に使いながら、塩分のさじ加減を学んでいくというのがこの塩分計を使った減塩生活の姿なのかもしれませんね。
今回は大部分が誤差についての話になりました。
すべての測定機器に誤差やデメリットが存在しますので、それ自体は大した問題ではありません。誤差に特性があるのであればそれを理解して使えば良いだけです。
しかし、もしこのような特性を理解できないのなら、あまりオススメしたくないという気持ちもあります。それは使い方を間違えると大部分の料理や飲物の測定誤差は塩分が少ない方向に振れてしまうためです。塩分計を使うことで逆に塩分摂取量が増えて、リスクを高めてしまう可能性があるということなのです。特に重度の高血圧や腎臓病の食事制限として使った場合はダイレクトに命が掛かってきます。
「なんとなく使っていたけど知らなかった」では済まない話しなのです。
今回は醤油やめんつゆでしたが、おそらくこの塩分計は測定するサンプルに得手不得手があるのではないかと思います。しばらくは塩分相当量が記載された市販品を測定して様子を見て行きたいと考えています。
この塩分計を使って色々やりたいことがありますが、その辺りをハッキリさせてからでないと無駄になってしまいそうです。
脳出血のブログで一体ナニしてるんだ、という話もありますが。
コメント
ameoさん、こんにちは。
このサイトはまだ活動していらっしゃるでしょうか。
先日、塩分計のPAL-sioを注文し、昨日届いたところでした。
印刷された説明書が入っていましたが、字が細かくて見にくいので
ネットで説明書を探していたところで、このサイトを知りました。
計測について詳細に説明していただいてありがとうございます。
市販の調味料から確実な塩分の数字を計測するのは、なかなか難しそうですね。
私はまず、海水からとった塩で一覧を作ってみたいと思います。
今後ともよろしくお願いいたします。