脳卒中患者が運転再開をするための手順

もう一度、自分で車を運転してみませんか?

脳卒中を経験しても自動車の運転は自分でしたいという思いは誰もが持っていることでしょう。実は後遺症があっても運転適性があることを証明できれば合法的に自動車の運転が可能です。ハンドルやアクセルなどの操作が困難な後遺症でも、車両に改造を加えることで運転が可能になる場合もあるのです。

また、たとえ後遺症が残らなかった場合でもそのまま運転を再開することは出来ません。運転の可否を判断するのは医師や本人ではなく免許を交付している公安委員会だからです。

つまり脳卒中を経験してしまった人は後遺症の大小や有無に関係なく、運転を再開する前にしなくてはいけないことがあるということです。

では脳卒中経験者が運転を再開するには、どのような手順を踏めば良いのでしょうか?

患者の立場で具体的に書かれた情報がなかったのでまとめてみました。
是非参考にしてください。

1.まず医師に相談をしよう

まず医師に「運転再開にチャレンジしたい」という強い思いがあることを伝えましょう。

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医師はリハビリ期の患者を主に「生活ができるか」という目線で見ています。これを「運転適性があるか」というもう少し厳しい目で確認してもらわないといけません。自動車の運転には高度な能力が必要となりますので、あらためて確認しないといけないこともあるでしょうし、リハビリ担当と相談しなくてはいけないこともあるでしょう。このため初回相談時に最終結論を求めてはいけません。「全く問題ない」「絶対に不可」と即断出来ないのであれば、可能性があっても言葉尻を濁らせることもあるでしょう。この段階では意志を伝えることが目的ですので、今はそれでOKです。

そしてこの意思表示にはもう一つの目的があります。
小さい病院や救急病院などでは患者の運転再開に関する経験が少ないケースもあります。頻繁に改正される道路交通法やこれに対する所属学会の方針などを把握していないことが考えられるのです。そんなときは患者からの相談がこれらを調べるキッカケになります。

このような実情も見受けられますので、開口一番に「さあさあ、今すぐ運転再開の許可を!」と迫ったりせずに、運転再開を本気で考えていることを強くアピールするところまでで止めておきましょう。

これがキックオフです。

2.徹底的に調べよう

運転免許試験場の担当の方に事前相談をする場合にもある程度の予備知識が必要です。最新の道路交通法や運転再開に対する知識をしっかり蓄えましょう。

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私が調べたことはこちらの記事でまとめていますので参考にしてください。
●脳卒中患者でも運転がしたい! 運転を再開するための予備知識(その1)
●脳卒中患者でも運転がしたい! 運転を再開するための予備知識(その2)

定型化された通常の運転免許試験とは異なり、「一定の病気など」に関する適性検査は患者の症状や程度により変化します。このため、同じ後遺症を持っている方の運転再開に関する体験談は大変貴重です。ネットでよく探してみましょう。

なお、道路交通法は頻繁に改正されるため、その情報が作成された日付にも注意しましょう。最近では平成26年(2014年)に「一定の病気など」に関わる調査票への回答が義務化されるなどの法改正がありました。

調べてもわからない点は運転免許試験場に確認するため、リストアップしておきましょう。

3.運転免許試験場に事前相談をしよう

運転免許試験場には「一定の病気など」の適性検査に関する相談窓口が設置されています。例えば、東京都の運転免許試験場であれば運動能力検査室という部署です。まずは電話で症状を説明した上で、手順や検査内容を再確認しましょう。

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ここで調べてもわからなかったことを聞いておきましょう。

なお、適性検査の内容は実際に面談をし診断書を確認してから決まりますので、この段階で約束されるものではありません。患者の症状や程度はまちまちですので、電話だけでは明確に答えることが出来ない、ということを理解した上でわかる範囲の情報を収集しましょう。

最も注意すべきは、運転免許試験場の設備で適性検査ができる範囲の症状かということです。ハンドルにノブを付ける程度の補助装置であれば用意されていることが多いのですが、患者特有の改造をしなくてはいけない場合は、実際に改造された車両を自ら用意して運転免許試験場に持ち込む、という非常に大きな話になってしまいます。これに該当してしまいそうな方は電話だけではなく、直接運転免許試験場で相談をすることも必要でしょう。

4.心配なら事前に運転適性を確認しよう

もし、いきなり適性検査を受けて合格する自信が持てないのであれば、運転再開をサポートしているリハビリセンターやリハビリ病院で事前に確認することもできます。

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●参考
国立障害者リハビリテーションセンター自立支援局(埼玉県)
障害者支援施設 自立生活訓練センター(兵庫県)

これらの施設では運転シミュレーターを用いた能力の確認やカウンセリングを受けることができます。また、施設内コースで実際に運転をすることも可能です。お住まいの地区で運転再開を支援しているリハビリセンターがないか探してみましょう。

なお、ここで問題がなかったとしても運転免許試験場での適性検査が免除になるわけではありません。しかし、自分が運転が可能な能力を持っているか、そして運転再開のためにクリアすべき課題は何かを知ることができます。
必要に応じて利用しましょう。

なお、本番の適性検査では自力での運転席への乗り降りが必須とされています。片麻痺などで困難な場合は自宅でも繰り返し練習をしておくと良いでしょう。

5.適性検査を受ける時期を決めよう

自分が受けるであろう適性検査、運転に必要な機能、必要な補助装置、そしてクリアすべき課題などの概略はつかめたでしょうか?
次に適性検査を受ける時期を医師と相談して決めましょう。

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一度適性検査を受けて不合格とされると免許は即座に取り消し処分とされます。取り消しから3年以内に運転適性が回復できれば学科や実技試験が免除される救済措置もありますが、3年を超えると無免許状態からの新規取得となりますので注意が必要です。免許更新まで猶予があるのであれば、適性検査を合格できると自信が持てるまで回復してから行動を起こしましょう。

このときに診断書作成にかかる日数も確認しておきましょう。一般的に診断書の作成は2週間程度かかると言われていますが、医師が多忙な場合はいくらでも遅れますので注意が必要です。

6.診断書の用紙を入手しよう

診断書の用紙は運転免許試験場で用意されたものを使わないといけません。用紙は疾患ごとに内容が異なりますので注意しましょう。

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運転免許試験場に電話をし、「一定の病気などに関する脳卒中用の診断書の用紙が欲しい」と伝えましょう。運転免許試験場か特定の警察署で受け取ることが出来ます。なお、場合により郵送してくれることもあるそうです。

記入の注意点が書かれた医師向けのガイドラインや記入例などがある場合は一緒に頂いておきましょう。

7.医師に診断書の作成を依頼しよう

診断書の用紙を医師に渡して記載をお願いしましょう。

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適性検査を合格するためには「運転を控えるべきとは言えない」という内容の診断書が必須です。「運転を控えるべき」「いまは判断できない」という内容になるのであれば、運転再開のチャレンジは延期せざるを得ません。念のため、医師にその旨をもう一度確認しておきましょう。

なお、診断書作成には数千円の費用がかかります。

8.適性検査を受けよう

受け取った診断書をもち、運転免許試験場で適性検査を受けましょう。
症状により機材の用意などの準備が必要になりますので予約を入れておくとよいでしょう。

免許更新のタイミングであれば、はじめは一般の方と同じ手順で手続きを行いますが、視力を検査した後に別室に案内されて適性検査が始まります。まずは面談が行われ、発症時の様子から現在までの経過を、そして現在残っている症状について聞かれます。さらに診断書を踏まえて運転シミュレーターで行う検査の内容が決まります。

面談の際に病院の診察カードの提示を求められることもあります。結果が難しい判断になってしまった場合に医師と直接会話をする必要があるためです。忘れずに持って行きましょう。

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続いて運転シミュレーターで運転適性を確認します。

検査の内容は経験した症状、若しくは残っている後遺症に該当する試験が行われるため、一般的な運転免許試験とは違い決まったものではありません。例えば、判断力障害/注意力障害/視野欠損などの高次脳機能障害の影響が疑われるのであれば、運転中の動画を見ながら指示された条件でクラクションを鳴らすというような課題をこなしていきます。片麻痺が残っているのであれば、運転席への乗り降り、そしてブレーキやアクセル、ハンドルが適切にコントロールできるかも確認します。

なお、検査というより免許試験本番と考えたほうがよいでしょう。健常者同等として扱ってもらうための確認ですので、障害者だからといって温情判断をしてくれることはありません。緊張感を持って全力を尽くしましょう。

9.免許交付

適性検査と診断書の双方が問題ないとされた場合、新しい免許が交付されます。

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適性検査の結果に応じてマニュアルからオートマに変更されたり、ハンドルやアクセルに補助装置付きという条件が加わります。なお、免許更新前で条件が変わらなかった場合は今の免許でそのまま運転が可能です。

運転免許試験場での判断が難しい微妙な結果となった場合は、検査結果を運転免許本部へ送り最終判断が行われます。この結果は後日聴聞会で申請者に伝えられます。そこで「運転に支障がない」と判断されれば晴れて免許交付となります。

これで運転再開が可能となりました。
おめでとうございます!

免許に補助装置の条件が付いた方は適合する車両を用意しましょう。

●2016/08/19追記

2007年以前に普通免許を取得していた人は、免許区分の変更により中型免許の8t限定になっています。
その方が適性検査でAT限定へ変更になった場合、普通免許に格下げされることはなく、中型免許の8t/AT限定となります。
つまり8t未満のトラックでもATなら運転ができるということです。

なお2017年(平成29年)から新しい免許区分「準中型免許」の新設が予定されています。

●準中型自動車・準中型免許の新設について(平成29年3月12日施行)
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/menkyo/menkyo/chugata.html

また、その際に普通免許の車両総重量が5tから3.5tに削減されるため、2007年から2017年の免許区分改正前に普通免許を取得した方は、免許更新時に準中型免許の5t限定に変更されます。
まだ事例がないためおそらくではありますが、現在と同様に適性検査で「ATであれば準中型免許も運転できる」と判断されると、そのまま準中型免許での交付となるでしょう。

10.運転できる条件の車両を用意しよう

免許に補助装置の条件が追加された場合はそれに適合する車両を用意しましょう。

例えば、ハンドルに手を固定するためのノブを取り付けたり、アクセルやブレーキの位置を麻痺していない側に寄せるのです。場合によっては手だけで運転するように改造することもできます。車椅子を使っている方であれば、車両に収納するための装置も必要となるでしょう。

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車両は改造を施すだけではなく、改造車として陸運局への登録が必要です。改造は取り扱いの経験が豊富な専門店やメーカーディーラーにお願いしましょう。

2016/02/08追記
身障者用操作装置の「指定部品」を取り付けて保安基準を満たしている場合、改造申請は不要です。ステアリングノブの取り付けやアクセル/ブレーキの位置変更などの簡易な改造であれば、既存の「指定部品」を選ぶことで改造申請が必要なくなるということです。

なお、車両の改造には補助装置の条件がついた免許を提示することで助成金が下ります。改造前に申請が必要な場合もあるようですので事前に確認をしておきましょう。また、障害者と認定されている方には自動車関連の税金が減免されます。こちらも忘れずに申請をしましょう。

障害者マークも付けましょう。
聴覚障害者は蝶マーク、身体障害者はクローバーマークです。クローバーマークは道路交通法上は義務ではありませんが、車両に掲示をしておくと他の車は運転時に配慮をしないといけないという義務が発生します。トラブル時に強い味方となりますので必ず付けておきましょう。

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青い車椅子でお馴染みの障害者マークは道路交通法が関わるものではありませんが、圧倒的に認知度が高いため、こちらのほうが運転時に配慮してもらえる効果が期待できます。補助装置付きの車両を運転するのであれば一緒に掲示をしておくことを強くオススメします。

11.運転再開

さあ、どこへ行きましょうか?
どうぞ、安全運転で!!

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脳卒中患者側から見た運転再開の手順をまとめてみましたが、いかがでしょうか。
付け足しておきたい内容などございましたら、大変お手数ですがコメントでお教え願います。
宜しくお願いいたします。

続けて、私の免許更新体験記もまとめておきましょう。
私は後遺症がほぼ解消できていたため、条件の追加なしで免許更新をすることが出来ましたが、その裏でいくつかのトラブルもありました。どんな適性検査を受けたのか? 診断書を入手するまでに苦労した話など、こちらも参考になると思います。
是非ご覧になってくださいね。

●脳出血を発症した私の運転免許更新体験記

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コメント

  1. ss より:

    質問です。
    高次脳障害についてどの程度の障害までであれば運転が再開できるかなどの目安などあれば教えていただきたいと思います。
    作業療法士の評価である程度カットオフ値などはありますが、あくまで1つの指標に過ぎません。実際の現場でのシュミレーターの内容など注意障害などに関することでわかることがあれば教えていただきたいと思います。

    • ameo より:

      コメントありがとうございます。
      管理人のameoと申します。

      大変遅くなり本当に本当に申し訳ありません!
      システムからの通知が迷惑メールで処理されていました。

      注意障害などに関わる運転再開の目安についてですが、

      ①複数の動く対象を認識下に置くことができるか
      ②その集中を維持できるか
      ③変化に対応できるか
      ④自分がすべき行動を正しく判断できるか
      ⑤判断や行動のスピードが健常者同等か

      これらを総じて「事故を起こさないか」で運転可否が判断されています。
      ですのでボーダー上の注意障害に具体的な可否ラインを引くのは難しいですよね。

      強いて言うのであれば「助手席で運転手と同等の判断ができるか」が良い目安になると考えます。
      免許取り立ての頃、怖がる助手席からアレコレ言われた経験があるはずです。
      「右から来てるよ」「ストップ!歩行者いる」「左寄りすぎ」などなど。
      今それが出来るでしょうか。
      運転手と同じタイミングで同じ行動ができれば運転もまた可能だと思います。
      逆に運転手の行動が理解できなかったときは理由を聞いてみましょう。
      そこに何かしらの弱点があるということです。

      運転再開へのよい訓練にもなります。
      是非試してみてくださいね。
      それでは。

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