降圧剤は認知症を招くのか?それとも防ぐのか? わかりやすく整理しよう

「降圧剤を服用すると認知症になる」
「降圧剤は認知症も予防する」

高血圧を患っている方ならどちらも聞いたことがあると思います。
相反する意見ですよね。

これはいったいどういうことなのでしょうか?

繰り広げられる論争「降圧剤は認知症を招くのか」

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「高血圧が進行すると脳卒中や心筋梗塞などの合併症を招くため、降圧剤を服用して発症を防ぐ」

これが医療で行われている一般的な処置です。

しかし、これに反するようにこのようなことも言われています。

「降圧剤で血圧を下げると認知症になる」

表現は過激に変化し、ネットや雑誌で拡散しています。

「降圧剤を服用した人がボケた。降圧剤のせいだ」
「医師は降圧剤を絶対に飲まない」

「医師は嘘を言っており、それは病院や薬品会社が金を儲けるための陰謀だ」

このことが私達医学に疎い高血圧患者を困惑させています。

「脳卒中や心筋梗塞は怖いけど、認知症だけは絶対にイヤだから降圧剤は飲みたくない」
「認知症になりたくないから降圧剤の服用量を勝手に減らしている」

と言う人も見受けられます。

コレは正しいのでしょうか?
今一度、整理をして不安を解消しましょう。

「降圧剤を服用すると認知症になる」とは

これは降圧剤が前提となる高血圧治療への警鐘として言われています。

理由は「降圧剤で血圧を下げることで脳への血流量が減るため」です。動脈硬化で狭くなった脳の毛細血管に血液を流すにはそれ相応の圧力、すなわち高い血圧が必要になります。

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降圧剤で血圧を下げ過ぎると脳細胞の維持に必要な量の酸素を供給できなくなり、認知症になるという話です。

なるほど確かに筋が通っています。

「降圧剤は認知症も予防する」とは

一方、医療系サイトを見てみると「降圧剤は認知症も防ぐ」という記述をよく見かけます。

高血圧は動脈硬化を促進し、動脈硬化は高血圧を促進します。この負のループをどこかで断たないといずれは合併症を引き起こしてしまいます。

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降圧剤で血圧を下げると脳の毛細血管の動脈硬化の進行を遅らせることが出来ます。脳の血管を健全に保つことができるため、このことが認知症を予防することにも繋がる、ということです。

こちらも正しいように思えます。

どちらも正しいのでは?

どちらもこの段階ではトンデモ理論でゴリ押ししているわけではありません。双方主張していることは間違ってはいないように思えます。このままでは一度動脈硬化が進行してしまうと、血圧を上げても下げても認知症になると言えてしまいます。
さて困りました。

しかしよく考えてみると、これらには「そこだけを見るのであれば……」という条件が付きます。

これを理解するには認知症についても学ばないといけません。

認知症も理解しよう

認知症とは症状群

認知症は骨折のような原因を表した疾患名ではなく、症状群の名称です。

・記憶障害
・判断力障害
・理解力障害
・実行機能障害
・見当識障害(時間や場所が分からなくなる)
・失語(名前が分からなくなる)
・失行(使うことができなくなる)
・失認(何に使うものなのか分からなくなる)

これらは認知症の中核症状と呼ばれています。そして中核症状により生じる徘徊や幻覚、暴力、依存、焦燥などの認知症特有の異常行動や心理状態を周辺症状と呼んでいます。認知症でどのような周辺症状がでるかは人それぞれです。

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これらの症状群が出ていれば原因はなんであれ「認知症」なのです。

原因による分類

では、認知症の原因になる疾患とは何でしょうか?
誰もが「アルツハイマー病」と答えるでしょう。
しかしこれだけでは正解とは言えません。

頭痛や高血圧が原因で分類出来るように、認知症も原因により幾つかに分類ができます。

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このように認知症は多くの疾患が原因になりうるのです。

次に原因疾患の割合を見てみましょう。

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発症原因の割合が最も高いのはアルツハイマー症です。

そして続いて多い脳血管性認知症は、脳血管の障害により認知症の症状群が起こることです。つまり、脳卒中です。

脳卒中により認知症に該当する後遺症が残った場合は「脳血管性認知症」に分類されます。誤解されている場合が多いのですが、脳卒中の治療や後遺症でアルツハイマー病になるのではないのです。

高次脳機能障害と認知症の関係

脳卒中の後遺症から半身麻痺や感覚障害などの症状を除いた「意識や知能に関わる後遺症」を高次脳機能障害と呼びます。つまり、脳卒中が原因で認知症になった場合、その中核症状は高次脳機能障害に含まれます。

脳卒中から見た認知症をまとめてみるとこうなります。

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認知症と脳卒中は別の疾患ではなく、今回の課題の範疇であれば認知症は脳卒中の後遺症の一部なのです。

さて、話を降圧剤に戻しましょう

「認知症にならないためには降圧剤を服用すべきか? それとも服用してはいけないか?」という議論でしたが、それぞれの真の目的はなんだったのでしょうか?

同じ「脳卒中を防ごう」だった

実は突き詰めていくとほぼ同じことを言っています。

双方とも「認知症にならないために脳卒中を防ごう」と言っているのですが、降圧剤の解釈が違うだけなのです。

しかし、降圧剤を服用せずに発症した脳卒中なら認知症にならない、そんなことはありません。血圧を低くし過ぎたことで虚血性脳卒中を起こした場合、認知症になりやすいというわけでもないのです。

脳血管性認知症になるか否かは「認知症の中核症状を起こす部位で脳卒中が起こるかどうか」にかかっています。それは私達が選択できるものではありません。

であれば脳卒中にならないことを第一に治療をするしかありません。

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「動脈硬化が進行しているなら、血圧は上げすぎても下げすぎてもいけない」という至極単純な話です。この論争はその片側だけ見て主張しあっているだけだったのです。

では、血圧値はどこを狙うのがベストか

わかりません。

投げやりになったわけではありません。患者により狙うべき血圧が異なるため、全員がこの値にしなくてはいけないということが言えないのです。

各学会から血圧の目標値がでていますが、それらはあくまでも統計上の最適値であり、患者個人の条件は何も考慮されていません。これを目安として使い、経験や治療スタンスを踏まえて各患者の最適な治療内容を決めるのが主治医です。

合併症発症のリスクが非常に高いなら、早急に降圧剤で血圧を下げる必要があります。すでに合併症を経験しているならなおさらです。
血圧値自体はさほど高くなくとも、短期間で急上昇しているなら取り急ぎ降圧剤で血圧を抑えこみ、検査で原因を探る必要があるでしょう。糖尿病や腎臓病を患っていたり、遺伝的に脳卒中になりやすい人なら極めて高リスクです。厳しく血圧をコントロールする必要があるでしょう。

しかし、さほど合併症のリスクがなく、食事の改善などで治る可能性があるのであればまずは生活を正すことを指導されるでしょう。高齢による自然な高血圧を降圧剤で無理やり至適血圧まで引き下げるのも危険です。年齢が若ければ生活改善の指導で終わりますが、無視し続ければ予備的治療として降圧剤を処方されることもあるでしょう。

このようにその患者にあった適度な血圧コントロールが必要ということです。
みんな違ってそれでいいのです。

それをすべての人に向けて、誰もが恐れる忌み嫌われる言葉「認知症」を持ちだして

「認知症になるから降圧剤を使ってはいけない」
「認知症にならないように降圧剤で至適血圧まで下げなければいけない」

なんて言えるわけがありません。

もし、そう主張しているなら話を真に受けて不安になる必要はありません。
「あーハイハイ」と軽く聞き流してしまいましょう。

まだ不安なら主治医に相談を

もし、それでも不安が残るならその旨を主治医に相談しましょう。

今、自分自身が抱えているリスクと目標とすべき血圧値は必ず知っておくべきです。それを知らないから他人の声に不安になるのです。

ちなみに私は脳出血を経験している超高リスク患者ですが、115/75mmHg程度でコントロールできているため現在は降圧剤を服用していません。降圧剤を服用していた頃は、上の血圧が110mmHgを下回ると「降圧剤が強すぎる」という評価を受けていました。
今後、血圧がコントロール不能に陥り、再上昇を始めたときには即座に降圧剤に頼る必要があるでしょう。数十年不摂生を続けて脆くなった血管は簡単には治りません。血圧が高くなると血管が破れやすいという事実が私の最大のリスクなのです。
それが私という患者の個性です。

だから「血圧的にもうちょっと不摂生できる余裕があるよね」とか「降圧剤飲めばもっといい加減でもいいんじゃね?」とは思いません。逆に「よーし、血圧値をもっと下げよう」とも思いません。

血圧をコントロールするための節制生活が不自由だと思うことはありますが、生きていくためには脳出血再発や他の合併症を防ぐことが最優先です。降圧剤であろうとも必要であればためらわずに利用します。それが認知症を防ぐことにもなるのです。

降圧剤と認知症のモヤモヤした関係、スッキリできたでしょうか?
「なーんだ、そんなことだったのかぁ」と感じて頂ければ幸いです。

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コメント

  1. フジッコ より:

    こんにちは。

    降圧剤、確かに私も一生服用してたらボケるんちゃうんかなと
    不安になっていたりしました。
    まあ…もしかしたらボケるまえに再発するリスクのほうが高いんやろうな…
    などと、妙に納得させてました。

    じつは
    最近立ちくらみ?めまい?のような事が時々起こるようになり
    もしかして降圧剤の効きすぎを勝手に想像してます。
    次回診察日に
    主治医に相談してみようと思います。
    今、アムバロという配合剤なんですが、薬をなくしてしまうのは怖いし
    (目標はそこ!ですが)少し緩いお薬とかあれば処方してもらいたいです。
    なかなか
    先生に提案するのはこわいんですけどね。

    • ameo より:

      フジッコさん、こんばんは。

      体質改善が進んでいるなら薬は徐々に効きすぎになりますので、めまいはもしかしたら良いことなのかもしれませんよ。
      気になる症状は主治医にしっかり伝えましょう。

      私は発症当初、失語症の影響で上手に伝える自信がなかったため、事前に紙にまとめてそれを見せながら説明をしていました。
      まるで仕事のプレゼンです。
      キッチリ用意をして伝えると主治医も真剣に考えてくれますよ。

      それと「回復していますよ」「自分で治すぜ!」「全く諦めていません」というアピールはとても大事です。
      私を引き合いにだしてくれてもOKですよ。
      「知り合いに脳出血後に降圧剤を止めるまで回復した人がいる。私もそれを目指します」とか。

      そんなポジティブな患者さんがいないので、医師も作業のように薬を処方するだけになっている、そんな気がしてなりません。
      恥ずかしいかも知れませんが、少々前のめりで挑みましょう!

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