脳卒中で壊死した脳細胞を再生する画期的な薬が開発されようとしています

脳卒中は脳血管の詰まりや破裂で脳細胞が壊死することで機能障害という後遺症を起こします。壊死した脳細胞は二度と蘇ることはありません。残った脳細胞を駆使して失った機能を取り戻すのがリハビリです。

しかし、このリハビリは御存知の通り時間と根気が必要で容易なことではありません。トレーニングだけで本来の使い方とは違う脳細胞のネットワークを築きあげないといけないからです。
そしてリハビリの効果が高い期間にもタイムリミットがあります。この時期を逃し慢性化した後遺症は諦めざるを得ないというのが実情です。

では、もし壊死した脳細胞が再生できたら、どうなるでしょうか?

「失った脳細胞は再生できない」という常識が変わる

「失った脳細胞は再生できない」それが今までの常識でした。
しかしこの常識が変わる日が近づいているのかもしれません。

現在、サンバイオという医薬品会社は脳梗塞治療薬SB623という新薬の臨床試験を行っています。これが脳神経を再生させる薬です。
現在、臨床試験で後遺症が慢性化した患者の脳にSB623を投与し、効果と安全性を確認しています。現時点では「効果はあり」と判断されており、正式承認に向けて臨床試験を続行しているところです。

もしこの薬が一般的に使えるようになったのなら、諦めていた半身麻痺や失語症などの後遺症が軽減できる可能性が出てきます。

SB623とはどんな薬なのか

SB623とは神経再生能力を高めた骨髄由来の幹細胞であり、これを直接患部に投与することで損傷した脳神経の再生を促すという仕組みです。

脳梗塞は血管が詰まり、その先の脳細胞が壊死する疾患です。脳細胞だけ再生しても同じように壊死してしまいます。しかし、このSB623は血管を再生する効果も併せ持っているのです。

20151226_sanbio_sb623_02

つまり、壊死した脳細胞が分解吸収されて空洞になった場所にもう一度脳細胞を植え付けることが出来るのです。

治療も患者の負担が少ないものとなるようです。脳の損傷した部分に注射で投与し、翌日には退院できるという治療例が提示されています。

この薬を開発しているサンバイオという会社について

20151226_sanbio_sb623_03

●サンバイオ公式Webサイト
http://www.sanbio.jp/index.html

設立は2013年2月と比較的新しく、従業員20名という小規模な会社です。
事業内容は「再生細胞医薬品の開発・販売」であり、つまりこの薬の開発を目標として設立された国内企業です。

この新薬SB623に関しては、米国は大日本住友製薬株式会社、国内は帝人株式会社とライセンス契約を結んでいます。

「サンバイオ」で検索をすると株式投資関連のニュースばかりヒットしますが、これは2015年4月に東京証券取引所マザーズ市場に鳴り物入りで上場し、投資家の間でも話題になっているためです。臨床試験には莫大なお金がかかります。そしてこの薬が販売できるまでは売上がありません。上場し投資家を募ることで乗り切ろうということなのでしょう。

この薬はいつごろから使えるようになるのか

今現在後遺症を抱えている方には一番気になる点です。

現在、米国で医薬品として承認されるために必要な3つのフェーズの臨床試験のうち、「2フェーズの後半」の試験が行われようとしています。

20151226_sanbio_sb623_03

ただし、日本でこの治療を受けるためには日本国内で承認されないといけません。日本での臨床試験は先行する米国を追いかける形で実施される予定です。

米国を含む北米地域では2021年3月までの販売を見込むとアナウンスされています。国内販売について言及する内容は見つかりませんでしたが、米国の数年遅れになるのではないでしょうか。

残念ながら今すぐにとはいかないようです。

最新の情報はサンバイオのニュースリリースを確認しましょう。
http://www.sanbio.jp/news/

個人的に思うこと

この薬は今まで不可能と言われた脳神経の再生が出来る画期的なものです。

しかし、失われた脳の機能が元通りになるかはやはり本人次第だと考えています。それは脳の機能は脳神経単体ではなく、脳神経のネットワークで作り出されているからです。脳神経だけを再生しても同じ機能にはなりません。やはり、リハビリで脳神経のネットワークをもう一度築き上げる必要があるのです。

ただし、リハビリで脳の他の場所にネットワークを再構築することが出来ず後遺症が慢性可してしまった人にとっては、もともとその機能があった場所に脳神経が再生できるのですからリハビリの効果は出やすいはずです。壊死した周囲で生きている脳細胞はちぎれたネットワークを比較的容易に作り直すことができるでしょう。

20151226_sanbio_sb623_04

要するに、「慢性化してしまった後遺症でもリハビリの効果が出る薬」という解釈が正しいように思います。

しかし、一部で期待されているように何もかも元通りに戻るという特効薬的効果までは仕組み的には難しいのではないかと考えています。
わかりやすく例を挙げると、脳梗塞で失ってしまった幼い頃の記憶のネットワークは新品の脳細胞を入れたからといって再現できるものではありません。完全に消失してしまった記憶はこの薬でも取り戻せないのです。「りんご」ならもう一度覚えれば良いのですが、「小学校の遠足の経験」は蘇らないのです。
さらにややこしい話になりますが、記憶自体は残っているがその記憶を取り出すネットワークに損傷がある場合は効果があるかもしれません。

すなわち「この薬を使っても効果の有無や程度は患者の脳の状態と努力次第」ということになるでしょう。

それでも、この新薬には脳に後遺症を抱えて苦しんでいる人にとっては大きな大きな一歩を期待できます。
諦めていたけど自分の力で歩けるようになった。自然なコミュニケーションがとれるようになった。近い将来にそんな良いニュースが聞けることを楽しみにしています。

スポンサーリンク
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

  1. 梶田 行光 より:

    妻が昨年12月に脳梗塞になり右手右足が麻痺しました
    背筋は大丈夫で自力で座れます。
    リハビリを始めたばかりですが
    新薬の臨床試験の被験者にはなれないでしょうか

    • ameo より:

      はじめまして、梶田様。
      管理人のameoと申します。
      コメントありがとうございます。

      治験に関してはサンバイオのWebページに募集案内があります。
      今日現在では外傷性脳損傷で慢性期の患者さんを募集中です。
      http://www.sanbio.jp/clinical_trials/

      この新薬はリハビリで改善できなかった慢性期の患者さんでも、再度リハビリの効果がでる状態にすることをメリットとした薬です。
      このため回復期の患者さんは治験の条件に合致しないかもしれません。

      奥様は去年12月発症とすると現在は回復期ですね。
      もっともリハビリの効果が期待できる時期です。
      これから半年、しっかりリハビリをすれば回復も実感できるでしょう。
      まずは目の前のリハビリを頑張りましょう。

      外傷性以外の脳損傷についてもいずれ治験が実施されると思います。
      将来的に治験にチャレンジする可能性が残っているのであれば、サンバイオのWebページで定期的に開発進捗や治験募集のチェックをすることをお勧めします。

      リハビリは苦悩とストレスの日々です。
      奥様をしっかり支えてあげてくださいね。
      陰ながら応援しております。

  2. 貞清 昭夫 より:

    サンバイオに期待している一人です。臨床試験の募集があれば受けてみたいと熱望しています。チャンスがあればお願いします。昨年4月に脳内出血になり治療、リハビリを受けて10月末に退院しました。その後週2回のデイサービスとリハビリに行っています。2月で60歳です。

    • ameo より:

      貞清様、はじめまして。
      管理人のameoと申します。
      コメントありがとうございます。

      サンバイオの新薬に期待している方はたくさんいるようですね。
      脳梗塞の治験募集が開始された際にはこちらのページで案内されることになるでしょう。
      http://www.sanbio.jp/clinical_trials/
      こまめにチェックをしましょう。

      ただ治験は新薬の効果を見定めるための比較試験ですので、半分の患者さんは偽薬を担当することになるでしょう。
      治験に大きな期待をすると悲しい思いをするかもしれません。
      そのことだけは覚えておいてくださいね。

  3. 長崎洋子 より:

    脳卒中の治験に応募させて頂きたくお願い申し上げます。

    • ameo より:

      長山様、こんにちは。
      管理人のameoと申します。
      コメントありがとうございます。

      治験の募集はサンバイオのこちらのページで案内されます。
      http://www.sanbio.jp/clinical_trials/

      現時点では外傷性脳損傷で慢性期の患者さんを募集していますね。
      国内の脳梗塞を対象とした治験はまだ募集が始まっていませんが、外傷性脳損傷に続けて実施されると予想されています。
      待っている人がたくさんいますのでぜひ頑張って欲しいものです。

  4. 永末浩昭 より:

    脳梗塞で、左半身麻痺してまもなく8年目です。現在施設で、生活暇を、見つけては、はスマホで、最新治療を、探しています。つい先日さんバイオーの、新薬を、見つけました。治験できるならと、思い会社に電話しましたけど、現在外傷の治験しかしてないとの事、とりあえずあきらめましたけど、未練たらたらです。これ以上悪くなる事ないとあきらめています。お願い致します。治験受けさせてください。福岡に住む永末浩昭と申します56才09029622577に吉報お願い致します。

    • ameo より:

      永末様、こんにちは。
      管理人のameoと申します。
      コメントありがとうございます。

      外傷性脳梗塞の治験者募集が始まってからの続報が無いですよね。
      私も気になっています。

      現在日本では新薬の「条件付き早期承認制度」が検討されています。
      サンバイオはこの制度を活用してSB623を早期に実用化したいという思いがあるようです。
      「条件付き早期承認制度」の動向もチェックしましょう。

      治験は治療ではなく比較試験ですので、半分の方はSB623の偽薬を処方されます。
      「あなたは偽薬でした」ではやりきれません。
      承認が早まると期待ができる背景もありますので、絶対に治したいと強く願うなら薬の実用化を待ったほうが安全で確実です。

  5. 藤本和彦 より:

    兵庫県に住む57歳の男性です。11年前に脳幹出血に倒れまして、以後、左半身麻痺で苦しんでおります。サンバイオ様のお薬の投与は手術のできない脳幹出血の場合にも適用できるのでしょうか。お聞かせください、お願い致します。

    • ameo より:

      藤本様、こんばんは。
      管理人のameoと申します。
      コメントありがとうございます。

      まずはこちらをご覧になってみてください。

      ●NHK クローズアップ現代+
      「脳がよみがえる!?再生医療大国・日本の逆襲」
      https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3964/index.html

      番組では社名が出ていませんがインタビューされている再生医療ベンチャーがサンバイオ、細胞薬がSB623です。

      神経幹細胞が各種脳細胞に分化して脳が出来上がるのですから理論的には脳幹であろうと再生可能です。
      これは万能細胞であるips細胞も同様です。

      SB623ではないですがコチラの病院でも治験が行われています。
      ●「再生医療治験のお知らせ」札幌医科大学附属病院
      http://web.sapmed.ac.jp/saisei/medicine.html

      対象が脳梗塞ではありますが、ここにはひとつ興味深い内容が記載されています。
      この病院の治験では培養した細胞製剤を静脈注射するという方法がとられています。
      つまり脳が損傷した場所を狙って直接注射をするのではなく、脳細胞に変化する間葉系幹細胞を血液中に満たすことで、脳が自己治癒するというアプローチです。
      つまり脳の再生は脳出血だからダメ、脳幹だからダメという話ではないのです。

      ただ、ご心配になる理由も分かります。
      治験もニュースも脳梗塞や外傷性脳損傷が話題の中心であり、脳出血に関しての情報がまるでない。
      不安になりますよね。
      脳梗塞と脳出血は慢性期であれば死滅した脳細胞は分解され穴になっているのですから大きな違いはありません。
      ですので脳梗塞で新薬や治療法の承認が下れば、脳出血への展開は早いものと期待しています。

      ここ数年で再生医療に関する法律が整備され、大病院や大学付属病院は再生医療に関する科を立ち上げ始めています。
      ぜひそちら方面もアンテナを広げておいてくださいね。

      いかがでしょうか。
      少しだけでも安心できたのであれば嬉しいです。

      • 藤本和彦 より:

        ありがとうございました。大変勇気づけられました、生活に張りが出るように思われます。感謝致します。

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です