脳卒中患者でも運転がしたい! 運転を再開するための予備知識(その1)

運転中のてんかんや意識喪失を起因とする重大事故が起きていることはご存知だと思います。
脳卒中の後遺症としてもこれらの症状が出ることがあり、さらに半身麻痺や判断力の低下、視野欠損など運転に支障がある別の症状が加わる場合もあります。そしてこれらの後遺症は患者によって症状も程度も全く異なります。

では、私達脳卒中患者が運転再開の検査や免許更新を受けるとき、誰がどのような手順で確認をするのでしょうか?

脳卒中の一種である脳出血を発症した私が、実際に免許更新を行った経験を踏まえて、具体的にわかりやすくまとめておきたいと思います。運転再開を目指している皆様のお役に立てれば幸いです。

まずは予備知識として「運転再開に際して知っておかなければいけないこと」をまとめておきましょう。流れ作業で終わる健常者の免許更新とは違い、イレギュラーな手続きとなりますので、不必要なトラブルを避けるためにもしっかり学んでおきましょう。

1.運転免許交付の判断をするのは公安委員会

まず、運転免許を交付するのは警察ではなく各都道府県の公安委員会です。

公安委員会とは

  • 警察の管理
  • 運転免許交付
  • 交通規制
  • 風俗営業の管理
  • デモの届け出
  • 古物商の許可、など

の業務を行う行政委員会です。

運転免許に警察ではなく公安委員会と記載されているのはこのためです。

20160118_drivers_license_21

ところが実務は公安委員会から委託された警察が行っています。東京なら東京都公安委員会管轄で警視庁が、大阪なら大阪府公安委員会管轄で大阪府警察が実務を行っているのです。このように組織が少々ややこしいので、ここでは「運転免許は公安委員会で」と表現させて頂きます。

20160118_drivers_license_02

「運転免許は公安委員会」、このフレーズは後でたくさん出てきますのでしっかり覚えておきましょう。

2.「一定の病気など」とは

私達脳卒中経験者が運転再開をしようとして調べていると、たびたび「一定の病気など」というキーワードが出てきます。

これは、

  • てんかん
  • 統合失調症
  • 再発性の失神
  • 無自覚性の低血糖症
  • そううつ病
  • 重度の睡眠障害
  • 認知症
  • アルコール/麻薬中毒者
  • その他自動車の運転に支障を及ぼす恐れのある症状

など運転に支障が出がちな病気や症状をまとめた総称です。

ズバリ脳卒中とは明記されていませんが、脳卒中の多種多様の後遺症は運転に支障がありますのでこれに該当します。脳卒中は「一定の病気など」に含まれるということです。

そして、今現在の症状だけを問いただしているのではありません。

過去5年以内において、病気を原因として、身体の全部又は一部が一時的に思い通りに動かせなくなったことがある。□はい □いいえ」

というように過去の病状も問われます。つまり、発症直後だけ片麻痺の症状があり、すぐに全快したとしても上記の質問には「はい」で答えなくてはいけないのです。

20160118_drivers_license_03

しかし、ここで勘違いしてほしくないのは「一定の病気など」に該当する人が即座に免許停止になるというわけではありません。運転適性の検査を受けなくてはいけない、ただそれだけです。後遺症が少ない、若しくは無いのであれば、問題がないことを確認するだけのことです。
片麻痺の症状が残っているのなら、ハンドルやアクセルに補助装置を付けて運転ができることを証明すればいいのです。
これが「一定の病気など」に関わる適性検査です。

なお、運転免許試験場で判断が出来ないような難しい結果となった場合は、後日運転免許本部で最終判断がされ、その内容は聴聞会で申請者に伝えられます。

3.「一定の病気など」を患っている/患っていた人は運転免許試験場へ

私達のような脳卒中経験者や後遺症を持つ人達は運転免許試験場で適性検査を受けなければなりません。たとえ優良運転者であっても免許更新を警察署で受けることはできないのです。

20160118_drivers_license_04

都道府県内に運転免許試験場が複数ある場合もあります。一般的に「一定の病気など」に関する適性検査はこの中の筆頭試験場と言われる主となる施設でしか受けることが出来ません。

皆様がお住まいの地区はどうでしょうか?
確認しておきましょう。

4.「一定の病気など」に関する質問票に正しく回答する義務がある

平成26年の道路交通法改正で免許取得/更新時に「一定の病気など」に関する質問票への回答がすべての人に義務化されました。これは栃木クレーン車事故や祇園暴走事故などてんかん患者による重大事故が多発していることを受けての対応です。

20160118_drivers_license_05

質問票の内容は以下のとおりです。

質問票
次の事項について、該当する□にレ印を付けて回答してください。
---------------------------
1 過去5年以内において、病気(病気の治療に伴う症状を含みます。)を原因として、又は原因は明らかでないが、意識を失ったことがある。
□はい □いいえ
---------------------------
2 過去5年以内において、病気を原因として、身体の全部又は一部が一時的に思い通りに動かせなくなったことがある。
□はい □いいえ
---------------------------
3 過去5年以内において、十分な睡眠時間を取っているにもかかわらず、日中、活動している最中に眠り込んでしまった回数が週3回以上となったことがある。
□はい □いいえ
---------------------------
4 過去1年以内において、次のいずれかに該当したことがある。
□はい □いいえ
 ・飲酒を繰り返し、絶えず体にアルコールが入っている状態を3日以上続けたことが3回以上ある。
 ・病気の治療のために、医師から飲酒をやめるように助言を受けているにもかかわらず、飲酒をしたことが3回以上ある。
---------------------------
5 病気を理由として、医師から、運転免許の取得又は運転を控えるように助言を受けている。
□はい □いいえ
---------------------------
〇〇県公安委員会 殿    年 月 日
上記のとおり回答します  回答者著名
        ________________
---------------------------
(注意事項)
1 各質問に対して「はい」と回答しても、直ちに運転免許を拒否若しくは保留され、又は既に受けている運転免許を取り消され若しくは停止されることはありません。
(運転免許の可否は、医師の診察を参考に判断されますので正確に記載してください。)

2 虚偽の記載をして提出した方は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に科せられます。
3 提出しない場合は手続きができません。

これに偽って回答をすると道路交通法違反となり、1年以内の懲役又は30万以下の罰金という罰則があります。さらに公安委員会を騙して免許を取得しているわけですから、状況によっては「運転免許の不正取得」という厳しい扱いになる恐れもあります。

重大事故は申告が必要な病気を隠して運転を続けることで発生しています。たとえ些細な事故であっても隠していた病気の影響を否定できなければ圧倒的に不利な立場に追い込まれてしまうでしょう。それは相手の過失が多くてもです。飲酒運転で事故を起こすと過失の割合が増えるのと同じです。

逆に公安委員会から「問題なし」のお墨付きが貰えれば胸を張って運転することが出来ます。
質問票には正しく回答をしましょう。

5.医師は公安委員会に患者の病状を届け出ることができる

平成26年の道路交通法改正で、医師の判断で公安委員会に患者の病状を報告することが出来るようになりました。

患者の病状は病院内で個人情報として保護されるべき内容ですが、運転禁止の医師の指導を無視して運転を続ける危険な患者を制止するためなど、必要に応じて公安委員会に通知することが出来るようになったのです。

20160118_drivers_license_06

現時点では通知は医師の義務ではなく任意とされていますが、実際に医師の指導を無視して運転を続ける方もチラホラ見受けられますので、この法改正は仕方がないのかもしれません。

6.「一定の病気など」に該当する疑いがある人に対して免許の効力停止ができる

平成26年の道路交通法改正で、公安委員会は「一定の病気など」に該当する疑いがある人に対して最大3ヶ月間の効力停止を行うことができるようになりました。

20160118_drivers_license_07

免許適性が分からないまま運転を続けることを止めさせ、適性検査を受けるように促すためのものでしょう。しかし、医師の指導をキチンと守り運転を控えている状態であれば、効力停止を受けることはまずありません。

つまり、医師の指導や公安委員会の勧告を無視して運転を続ける人は、免許の効力を停止されてしまうということです。この間に免許適性が確認できなければ免許は取り上げとなるでしょう。

たとえ全快し運転に全く支障が無かったとしても、意固地になり適性検査を拒絶して運転を続けると免許を取り上げられてしまう可能性がありますので注意しましょう。

7.「一定の病気など」で免許取り消しを受けても3年間の猶予がある

「一定の病気など」を理由として免許を取り消されても、3年以内に機能が回復して免許を再取得すると運転試験は免除されます。学科や仮免、本試験などの試験が必要なくなるという救済措置があるのです。ただし、片麻痺など残っている後遺症に対する運転適性試験は必要です。

20160118_drivers_license_08

つまり、運転再開の適性検査で不合格となり免許取り消しをされても、リハビリにより3年以内に運転に必要な機能回復ができれば、免許更新と同じような比較的簡単な手続きで運転が再開できるようになるということです。
しかし、3年を超えてしまった場合は無免許状態からの新規取得となってしまいます。後遺症が残っていることを考えると運転再開は一層厳しいものになるでしょう。

この場合の「免許取り消し」は通常の取り消しとは違うということです。適性検査で不合格になったとしても諦めてはいけません。3年以内の再チャレンジを目標にリハビリに励みましょう。

8.運転免許をできるだけ長く保持する方法

カンの鋭い方はお気付きの通り、運転再開に際して絶対に覚えておきたいことがあります。

運転再開を早めようと回復が不十分のまま強引に適性検査を受け不合格になると、すぐに免許取り消し処分が下されます。つまりそのタイミングから3年以内に再取得が出来ないと苦労して取得した免許の効力は完全に消滅してしまうのです。

もし、リハビリの真っ最中で運転適性の合否が微妙な状態であるなら、免許更新の期限まで絶対に運転しないことを医師に誓い、保留状態を保ったほうが良いでしょう。その誓いが信頼でき、医師から公安委員会への病状の通知がなければ「免許は持っているが運転は絶対にしない」という状態をしばらく保てるのです。

脳卒中であれば後遺症は発症直後から急速に治癒していきます。このため即座に「脳卒中発症=免許停止」とはせずに、しばらくは保留期間として患者が回復する猶予が与えられているという解釈が正しいでしょう。

例えば、ゴールド免許の更新直後に脳卒中を発症したとすると、免許更新まで5年弱+取り消し後も3年という長い期間のリハビリの猶予が与えられることになるのです。

免許更新の期限まで余裕があるのであれば、闇雲に運転再開をチャレンジしてはいけないということです。

20160118_drivers_license_09a

20160118_drivers_license_09b

もちろん保留中は運転適性が確認出来ていませんので、免許があっても運転をしてはいけない立場の人間です。たとえ全快しても適性検査を受けていなければ運転は不可です。もし運転をしていることが明らかになれば厳しい処分が下されてしまうでしょう。さらに合法的に免許を所持しているとは言いがたい状態ですので、事故を起こした際の任意保険も適用外となる可能性が高いのです。

このような仕組みがありますので、自分の免許の場合はどうなるかをよく考えて、焦らずに確実に合格できるまで回復してからチャレンジをしましょう。

長くなってしまったので一旦ここで切ります。
後半はこちら。

●脳卒中患者でも運転がしたい! 運転を再開するための予備知識(その2)

スポンサーリンク
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です