「血圧は120mmHg未満を推奨する」という研究結果について

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先日、高血圧患者にとってショッキングなニュースがありました。
「血圧を120mmHg未満を目標に治療することで、心血管疾患の発症や死亡率を1/4減少させることができる」というものです。120mmHg以上が高血圧だと扱われると40歳代以上の健康で平均的な人も高血圧患者とされてしまいます。いままで健康とされてきた高齢者でも降圧剤の服用をしなくてはいけないという厳しいものです。

「血圧「120未満」で病死27%減…米国立研」読売新聞
「最高血圧「120以下に」 米研究所、心臓病リスク低減へ周知」日本経済新聞
「最高血圧120以下目指せ 米研究所の研究報告」産経ニュース

このような見出しでネットに拡散していますが、発表内容をしっかり見てみると事実はちょっと違うようです。
今回はこの辺りをまとめていきましょう。

研究結果概略

まず、2015年9月に米国国立心肺血液研究所(NHLBI)はこの臨床試験の結果概要を発表しました。

まずは要点をみてみましょう。

  • アメリカ及びプエルトリコの9300名を対象とした大規模な臨床研究
  • 対象は心臓病や腎臓病のリスクが高い50歳以上の高血圧患者(ただし糖尿病及び脳卒中患者は対象外)
  • 治療の目標血圧を140mmHg未満と120mmHg未満の2つのグループに分けて比較
  • 120mmHg未満を目標にするグループは心血管疾患が27%減少、死亡率が25%減少
  • 臨床研究の器官は当初6年間の予定だったが、明確な結果が出たため3年で打ち切り
  • 結果はまだ概要だけしか発表されていない
  • 認知症や腎臓病への影響は来年に向けて分析中

つまり、高血圧の合併症の1つである心血管疾患に進展するリスクの高い人は、治療の目標血圧を引き下げることでその発症が減るということが確認できたという内容です。

ニュースから伝わってくるような全ての高血圧患者の目標血圧を120mmHgに引き下げましょうという内容ではないのです。そして健康診断で120mmHg以上を高血圧とするように迫っているわけでもないのです。

認知症や腎臓病への影響は来年に向けて分析中とのことです。さらに高齢者は高血圧由来以外の疾患を抱えている場合もあり、それらの影響についても考慮しないといけません。血圧を下げ過ぎると認知症が早まるのではないかという懸念もあります。
このようにまだ副作用となるマイナス面についての情報がない段階なのです。

なぜか冒頭のニュースでは「心血管疾患のリスクの高い」という文面がすっぽり抜けているため、日本では全ての人が対象とされているというニュアンスで広まっています。多少の演出があっても刺激的なニュースがウケるご時世ですので意図的なミスリードなのかもしれません。

つまり、まだ慌てる必要はなさそうです。
兎にも角にも少し詳しい情報の公開がないと医師も私達患者も判断のしようがありません。

研究結果詳細(続報)

概要の発表から2ヶ月経った2015年11月、米国の医学誌「the new england journal of medicine」に結果詳細が掲載されました。

A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control(英語)
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1511939

こちらもみていきましょう。

120mmHg未満目標 140mmHg未満目標
対象人数 4678人 4683人
平均収縮血圧 121.5mmHg 134.6mmHg
心血管疾患発症(年) 1.65% 2.19%
全死亡率(年) 1.03% 1.40%

※ただし、120mmHg未満を目標にしたグループは低血圧、失神、電解質異常、急性腎障害、急性腎不全の発症が有意に多かった。

要点をまとめるとこのようになりましたが、ここで注意しなくてはいけない点が2つあります。

①発症率と死亡率の減少をどう見るか

1つは発症率と死亡率の減少をどう見るかという点。

発症率は2.19%が1.65%に減ったため、1.65/2.19=0.75 → 25%減少
死亡率は1.40%が1.03%に減ったため、1.03/1.40=0.73 → 27%減少

この25%と27%という大きな減少率をもって「有意な効果があった」としています。確かにその通りです。

しかし割合の割合というあまり良くない表現をしています。この場合は母数を明確にしないと正しい判断はできません。例えば0.003%が0.001%に減った場合は「66%減少!!」というセンセーショナルな見出しが付けられますが、実際は10万人に3人だった事例が1人に減ったということもありえます。それを踏まえて10万人全員に診察と投薬を受けさせますかという判断をしなくてはいけません。治療内容の負荷にもよりますが、この例であれば「NO」が現実的な解ではないでしょうか。

では今回の場合はどうでしょうか?
前出の表を人数に書き換えてみましょう。

120mmHg未満目標 140mmHg未満目標
対象人数 4678人 4683人
平均収縮血圧 121.5mmHg 134.6mmHg
心血管疾患発症(年) 77.2人 102.6人 -25.4人
全死亡率(年) 48.2人 65.6人 -17.4人

4680人程度の母数で1年間に発症が25人、死亡が17人減らせるという効果であるということがわかりました。

対象が高血圧を患っている高齢者ですので多い少ないの判断は難しいですが、ニュースで伝わっているような「あなたの発症や死亡のリスクが25%削減できる」というニュアンスとは程遠いということが分かります。

個人的には「確かに効果はある。しかし期待していたような絶大な効果ではない」というのが素直な感想です。血圧を下げることで生じる副作用がどの程度あるかで判断が変わりそうです。

②血圧を引き下げることで生じるマイナス面

2つ目の懸念点は「120mmHg未満を目標にしたグループは低血圧、失神、電解質異常、急性腎障害、急性腎不全の発症が有意に多かった」ということです。さらに腎臓病や認知症については前述の通り、来年を目安に分析を推進するとアナウンスされています。

120mmHg未満にすることで心血管疾患については効果があったが、同時に生じるマイナス面もあるということも明確になったのです。そしてその全容はまだ見えていません。

まだ慌てる必要はない

簡単にまとめるとこうなります。

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これらを踏まえて医師はどう判断するのでしょうか?
私たち高血圧患者は降圧剤を増やして120mmHg未満にしたいと思うでしょうか?

おそらく効果と比較するためのマイナス面の全容がわからないため判断出来ないのではないでしょうか。

兎にも角にも、全ての分析が終わり最終結論が出てからだと思います。そのタイミングでプラスとマイナスを突き合わせ、課題や結論を出していけば良いということではないでしょうか。

それまでは煽りがちのニュースや悲観的な噂話に気を病む必要はなく、「こう言う話があった」ということだけを覚えておくだけでよい、私はそう考えています。

ちなみに私は脳卒中の1つである脳出血を経験していますので、今回の試験の対象外です。しかし、他の高血圧患者より心血管疾患のリスクが高いことは明らかですので、もし治療目標の血圧が改定された場合は真っ先に適用されてしまうでしょう。
リスクの高い患者は生活に制限が増えるのはどの疾患でも同じです。もし120mmHg未満にするように指導されたとしても、しっかり事情を把握していればそれもまた納得できるのではないでしょうか。

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コメント

  1. のんほい より:

    様々な意見があり実は私も困ってますwというのも時代によっていうことが変わるw
    私は屋内生活ではなんとかつかまったりふらつきながら
    歩きますが屋外では車いすがメインです。たいてい電動ソファで
    寝てる感じなので運動は比率が低く、投薬・生活改善でなんとか
    したいんですが早朝期で160以上とか110以上がざらなのでw
    問題は認識してるんですけどねー
    腎臓内科の医師の言うことは聞いてるんですがちょっとレアケースなんです。
    http://www.asyura2.com/09/health15/msg/561.html

    • ameo より:

      こんばんは、ameoです。

      血圧も塩分制限も本当は個人それぞれに設定すべきなんですよね。
      体重も年齢も倍違う人を捕まえて同じ基準で管理するのはやはり無理があります。

      ただ医師がそれをするだけの裏付けがないのも事実。
      難しいですよね。

      「貴方は体が大きく汗を大量にかく仕事をしているから塩分は9g/日、145mmHgを目標にしましょう」
      「動脈硬化が進んでいるので155mmHgが適正です」
      現状の医療ではこう言い切ることができません。

      まだまだ高血圧治療は発展途上です。
      ノイズに惑わされないように注意しながらベストな対応を模索しましょう。

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